初めに断っておきたいことは、この物語が事実である、ということだ。
物語の構成上、プライバシーに関わる記述があるため、若干の変更はあるものの、基本的には原文をそのまま用いることとした。
今を遡ること6年前、自分自身に起こったこの出来事を、一つの物語として紡ごうと思う。
◆◆◆◆
大学4年の夏、一通の手紙が届いた。
先輩へ。
「こんにちは。お久しぶりっす。元気っすか?俺は元気にしてます。多分。でもなんか、すんげえかったるいんすよ。レポートの締め切りがやばい!!できねぇぇぇ!!」
「で、最近、彼女出来たんですけど、それがもう大変なんですよ。メアド変えろって言うし、怪しいと思った人の番号全部消してくし、ちょっと部屋にモー娘のポスター貼ってると破ろうとするし‥」
「昔の女からもらった手紙とか、アクセサリーとかってやっぱ取っておくじゃないすか?捨てたいけど、捨てられないもの。見つかって思いっきり蹴られました。お前、空手でもやってんのかよってぐらいきつかった。何段だ?って感じで」
「本人は本人で好き放題ですよ?シークレットに男の名前入れてんですよ?俺といない時はずっと男と遊んでんですよ?本当にもう、It's not fair!!俺も遊びてぇのに‥」
「別れ話持ち出したら、思いっきり泣かれて、もうどうしようってなって‥みんなが言ってたことようやく分かりました。男は女の涙に弱いって。俺、あんなに女に泣かれたの初めてで‥女って怖いなと思った」
「先輩は優しい人でいいですよね、彼女。本当に羨ましいです。俺もうどうすればいいのかわかんねぇ。先輩助けてください。女がこれほど怖いとは思ってなかった」
「そうそう、先輩返事くださいよ!めんどくさがって出さないんだから、本当に。俺は正真正銘男だから返事くれますよね?こんな手紙だから女と思われるかも知れない。実はこれ、2つ下の妹からもらったんすよ。ちなみに、俺の彼女は2つ下、16歳。妹の彼氏は3つ上、19歳。関係ないっすか?すみません‥」
「プリクラ入れといてくださいよ。俺と秀人の分、2枚くらい欲しいな。ダメっすか?もう先輩の顔忘れちゃいますよー。俺、香川に引越したんですよ。すげー田舎で福岡が恋しくなりますよ。みさと別れるんじゃなかったなあ‥今度、遊びに来てください。何もないですけど」
「それで大学どうしようかなあと思って。やっぱサッカー強いとこがいいんですよ。いいとこ教えてください。電話とかかけたらやばいんすか?先輩、面倒くさがって電話しないタイプでしょ?後輩の悩みぐらい聞いてくださいよ!まあいいや、長くなりそうなので終わります。じゃあ、いちお住所書いときますね」
香川県○○郡××町△△番地 松田 祥平(仮名)
「松田祥平」
松田かー、うん、祥平ねー、元気してんのかなあいつー。
‥って誰、それ??全然、知らない。秀人?ますます知らない。
サッカー部っぽいこと書いてあったから、部活の名簿見た。後輩にも聞いてみた。
名簿にも載って無ければ、後輩も、
「え、松田?誰っすか、それ?そんな奴いないっすよ」つって。
誰だ、これーーーー!!!
あ、そうか!!住所間違えてんのか!!
送り先見た。
神奈川県川崎市○○区××町△△番地
「○○ ○○○様」
‥間違えようが無い。こんな珍しい名前はこの世に一人きりだと思う。住所もあってる。
一体だれだ?!祥平ーーーー!!
つって、しばらく考えた末、一抹の不安が脳裏をよぎった。
「はっ、もしかして‥」
◆◆◆◆
その日をさかのぼること1年前、一本の電話が鳴った。知らない番号だった。
(ピリリリリーーー)
「はいもしもしー?」
「あ、もしもしタクヤ君??」
「え、タクヤ?誰、違うけど‥」
「え‥タクヤ君じゃない?あたし、志保ですけど‥」
「ごめん、多分、間違い電話だと思うよ」
「本当に?ごめんなさい、間違えました」
「いえいえ‥」
数分後、また電話が鳴ると、そこには同じ番号が表示されていた。
(ピリリリーーー)
「もしもし??」
「あのう‥本当にタクヤ君じゃないんですか?」
「や、本当に違うねぇ‥」
「そうなんだ‥分かりました‥」
その時、僕は察した。
この女の子は、タクヤなる男と連絡先を交換したが、当の男はあまりノリ気ではなかったため、適当な番号でも教えたのだろう。そして、それがこの番号だったのだろう、と。
「まあ、元気だしなよ!」
「え‥??」
「色々あるけどさ、その内いいことあるって!」
「‥え?何か気遣ってもらってごめんなさい‥」
「いいって!!頑張ってね!」
「はい、ありがとうざいます‥」
自分でも何故わざわざ見ず知らずの人を励ましたのかは覚えてない。けれど、何か言わなきゃとの思いに駆られて出て来た言葉が、この一言だった。
今思えば、これが始まりだったのだろう。
それから1週間ほど経って、また知らない番号から電話が掛かった。
(ピリリリーーーーーー)
「はいもしもしー??」
「あ、すみません、あたし、この前の間違い電話の‥」
「あー。え、どうしたんですか?」
「あれから結構落ち込んだんですけど、お礼だけ言いたくて‥」
「や、そんなのいいのに。気にしないでよ」
「本当にありがとうございました。おかげでちょっと元気になりました」
「はは、ちょっとって随分正直な‥!」
「あはは、ごめんなさい」
「でも、よかった!そう言えばナニ君だっけ?例の?」
「タクヤ君‥」
「そう、それ!!見つかった?」
「いえ、見つかりませんでした」
「そっか残念だったね‥」
「でも、もういいんです」
「そっか‥」
「あの‥もし良かったら、メル友になってもらえません??」
正直、僕は迷った。メル友と言うものに、まったくと言っていいほど良い印象が無いかったからだ。それどころか、痛い目に遭ったことすらあった。
「メル友かあ‥どこ住んでるの?」
「四国です」
四国かあ‥四国なら会うことも無いだろうし、メル友ぐらいいいか。
漠然とした不安はあったものの、相手が遠方に住んでおり、実生活には影響が無いであろうことや、間違い電話から始まったメル友というのも面白いな、と思ったことが、心の奥底にあった感情を押しのけたのだろう。
そうしてメールのやり取りが始まった。
彼女は、自分が現在17歳の高校生であり、部活は吹奏楽部をやっていることや、友達との付き合いや家族のこと、進学先の悩みなどを教えてくれた。
都会へ出て暮らす大学生にとって、素朴な女子高生とのやり取りは、どこか地元を思い出させてくれるようで、特に自分から多くを語ることはしなかったが、彼女の話を聞いて嫌な気持ちになることは無かった。
そして、それを知ってか知らずか、彼女の方もまた自分の恋の話や悩みごとを打ち明けてくれていた。
間違い電話の元となったタクヤ君との出来事さえも。
取り立てて仲が良いと言うわけではなく、メールも何かあった時にするぐらいだったが、他愛の無いメールのやり取りが何となく心地よかった。
それは彼女も同じ気持ちだったと思う。
少なくとも、悪かったメル友の印象を変えるには十分な時間だった。
けれど、そんな二人の関係に変化が訪れる出来事が起こった。
新しい彼女が出来たのだ。
僕はこのことを志保にメールで伝えることにした。
「最近どうよー?実は俺、彼女出来てさー」
――これがそもそもの間違いだった。
それを機に、志保の態度は一変した。
「彼女ってどういうこと?!あたしは何なの?!」
返って来たメールは、その予想に反し、彼女を作った僕を責めるものだったのだ。
後編へ続く。
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